不動産とお別れ
日本人特有とまではいかないかもしれませんが、不動産に対してはいわゆる動産(もの)と比べて思い入れがあるものです。古くは、戦利品としてやり取りしたり、御上より拝領したりしたものです。貨幣経済の発展とともに”売買”も活性化されます。ただ、墾田永年私財法のころから、日本においては土地の私有化が認められていました。世界に類を見ない鷹揚な行政体系であったようです。
売主の義務
売却不動産の売却権者は、真の所有者です。登記上の所有権者であるとは限りません。この辺りは、別の機会にご紹介します。いずれにしても売主は、およそ3つの義務があるといわれています。①敷地所有権界画定、②登記移転、③引渡しです。①は、隣地所有者との合意に基づきます。「法務局所管の筆界」や「建基法上の敷地境界線」とは違う概念です。②は、その土地に係る全ての差押や抵当権などの、移転後の所有権を脅かす全ての権利を排除したものでなくてはなりません。③は、賃借権など一般的に登記に表れない権利等も含めて、対象不動産を契約時の姿で引き渡すことが求められます。
宅建業者は、やっぱり便利
実務上は、②と③については、宅建業者に依頼すると対応・助言してもらえるものです。売主は、見知っていることを素直に「告知」すれば足ります。コツは、少しでも疑念があるときは「告知する」です。また、宅建業者に仲介させない取引も有効ですが、瑕疵担保責任(もうすぐ”契約の趣旨に適合”している責任に改正予定)など取引の後の契約当事者にとって極めて重要な事項を私人間で合意形成しておくことは、親子間でもない限り困難であり危険です。
①については、売主が主体的に取り組むほぼ唯一のことかもしれません。管理人などは当然にお手伝いをしますが、必ず売主ご自身又はそれに代わる人に隣地所有者との同意の書面作成をお願いします。この部分は、話の持って行き方次第では、大変にこじれてしまいます。だからと言って、買主に所有権界を示さないことはできません。まれに隣地所有者と連絡がつかないことがあります。その場合の権利関係は十分に吟味することが求められます。売らない決断が必要になることもあります。
※不動産の売主の義務については、特別な明文規定があるわけではありません。判例・判決等からの類推や民法に照らした管理人の見解です。一般に、財産権移転義務、果実引渡義務、担保責任と呼ばれるものを不動産取引にあてはめて説明したものです。売主が宅建業者の場合は、加えて宅建業法の8種制限が義務化されています。