民事信託のすゝめ

8891067143d933a54ba352d84b2d1068_s「信託」をご存知ですか?”信託銀行”、”投資信託”などは耳にしたことがあるのではないでしょうか。概念としては、もともとの保有者(委託者)にその資産を管理したり、有効活用することが困難な事情があるときに、一定の裁量権とともにその資産の管理・処分能力がある管理者(受託者)に名義ごと任せて、その信託契約内容に沿った形で発生する収益を受益者に、契約終了時の元本を指定の人(帰属権利者)に授けるものです。今後はこの「信託」という文言をよく耳にすることになると思います。
※商事信託は、免許事業です。それぞれの商品の内パッケージ化されたものは、それぞれのHP等で紹介されています。

信託には様々な側面があります。①契約の一類型、②遺言の代用、③資産の有効活用など考えられます。

①の契約の一類型というのは、例えば相続においては、民法の相続編があります。これは、関係ある手続きや遺言が無い場合の法定の受取り割合などを定めたものです。もともと所有権者には所有物を処分する権限があります。それを当事者でいられなくなったり、事理弁識能力が衰えたり又は死後においても、その意思は契約において履行されるべきものであるのは当然です。
その他に生命保険もあります。終身保険、養老保険などの貯蓄タイプなどと呼ばれる商品が、信託銀行の提供する贈与信託商品等と分配の部分においては似通っています。

②の遺言の代用というのは、遺言は法律行為ですからその手続きに関しては厳格さが求められます。また日付が新しいのもが優先されたり、死後でなくては効力がなかったりと使いづらい部分があることも事実です。これらの隙間を信託は埋めることができるのです。また特徴的なのは、受益者を連続指定することで共済年金(公務員加入)にある転給のような効果をもたらすことも可能ですし、経営などの跡継ぎ問題の解消も実現できそうです。

③の資産の有効活用というのは、マンパワーの限界を理由にしています。どんなに優れた人でも時間を操ることはできません。企業組織においても権限の委譲などを伴う”職務充実”と”職務拡大”は、最大の関心事です。権限を委譲することで受託した側は、仕事の充実感を得て報酬も増しますが時間を失います。委譲した側は、慣れた仕事を手放して報酬を高く支払いますが、時間を得ます。組織論においては、「貢献」と「報酬」の関係性を重視しますが、管理人は加えて「時間」を考慮します。信託においても、もし自分が有する時間が無限であれば、何も問題はないのですから。

「くらし スエヨシ」スエヨシ商会では、信託契約に至るまでのコーディネートを提供します。この(民事)信託契約は、金融資産よりも相続財産の約半分を占めるといわれる不動産を扱う場合が多いと考えられます。従って、誰かが一人(1社)でできるものではありません。司法書士、税理士、弁護士等の士業の方々から、不動産管理会社、銀行、保険会社など様々なプレイヤーが存在します。
実務的には、どのように受託するのか(受託者を誰にするか)、どのように信託契約を履行するのかが重要になるのですが、その青写真(目論見、設計)を誰が描くのかも大変重要な要素です。
不動産運用、金融、年金・社会保障制度、相続・事業承継、税制等を隈なく勘案して目論見(スキーム)を作成するのですから、これらを得意範囲とするのは「ファイナンシャル・プランナー」がふさわしいかもしれません。その中でも特に不動産に精通するものがより良いかもしれません。「公認 不動産コンサルティングマスター」も適任かもしれません。ただし、信託契約を最終的に契約書面にまとめあげ、手続きを進めていただくのは、司法書士の方々が適任であることは言うまでもありません。

 

民事信託の例

44b3f37da3891b93b1f8fc7efb7f9c2d_s例1) 賃貸アパートの指名承継
父A(委託者)が所有するアパート2棟(B'とC’)を、子B(受託者)と子C(受託者)へ事業のノウハウを授けながら継承する。

  • 信託の種類:自益信託。委託者と受益者は、Aである。
  • 設定方法:信託契約。BとCにそれぞれ名義を移転し、収益受益権はAに、元本受益権はBとCを指定する。
  • 注意点
    • 事業ノウハウは、不動産管理会社を活用しても良い。
    • Aに一定の指図権を付与し、事業ノウハウを継承する。
    • Aの納税手続きと合わせて税理士に信託財産の会計処理を委託する。
    • 突発的な修理費等に備えて一定額の預金を信託財産とする。
    • 相続税対策には為らない。
    • Aは、受益者変更権を有する旨を定めておく。

例2) 共有不動産の管理運用・円滑解消
兄Dと妹E(委託者)で共有する老朽化した事業収益ビルを信託財産として、子F(Dの子)と子G(Eの子)が設立した一般社団法人(受託者)へ移管し、収益受益権はDとEが享受する。元本受益権は、Fが土地を、Gが建物を取得する。

  • 信託の種類:自益信託。委託者と受益者は、DとEである。
  • 設定方法:信託契約。FとGが設立した法人へ名義を移転し、管理運用を行い、収益受益権はDとEを指定する。
  • 注意点
    • 賃貸管理は、一般社団法人から不動産管理会社へ発注できる。
    • 不動産の借家契約は、定期借家へスムーズに移行する。
    • 法人会計を税理士に委託することで、収益分配の監査に一定の効果が期待できる。
    • 収益分配は、持ち分比率に応じて行う。
    • DとEどちらかに相続が発生したら、Fが土地、Gが建物を相続し信託を終了する。
    • 相続発生時には、厳しく時価を監視して、適税を心掛けるものとする。
    • FとGが相続するときには、定期借地(建物の再築を許さない契約)を予定する。
    • 建物取壊し費用の捻出方法を勘案する。
    • 突発的な修理費等に備えて一定額の預金を信託財産とする。
    • 相続税対策には為らない。
    • 土地の評価額が過半を占めるときは、共有解消が困難になる。

869dfd2323eabc7fdd3522f7b443be33_s例3) 空家・福祉対策
母H(委託者)は健常なうちに、古くなった住まいの行く末を子I(受託者)に任せることにした。判断能力が衰えたり、老人ホームへ入居後は、適宜処分してもらいたい。

  • 信託の種類:自益信託。委託者と受益者は、Hである。
  • 設定方法:信託契約。介護施設利用、認知症の発症、グループホーム・老人ホームへの入居など様々な段階の場合分けをする。収益受益権はHを指定する。元本受益権はIを指定する。
  • 注意点
    • どのような状況になったら、当該家屋に戻らないこと(現住所の移転)を覚悟するのか健常なうちに決めておく。
    • 任意後見制度を利用し、Hが認知症などを発症後は、IがHの財産管理を行う。
    • 住まいについては、賃貸・売却などを適宜に行える。
    • 固定資産税の支払、火災保険料などをどのように支払うのか勘案する。
    • 信託監督人として司法書士に、あれば確定申告を含めて税理士に、監督を依頼する。
    • 家屋の取壊し費用を勘案する。
    • 突発的な修理費等に備えて一定額の預金を信託財産とする。
    • 相続税対策には為らない。譲渡する場合などの特例を勘案する。
    • 資産価値が比較的高額でない場合は、簡便な契約関係を心掛ける。

※記事は、2015年8月現在に、弊社の見解を述べたものです。民事信託については、まだ法改正後の実例並びに裁判例等も少ないため、クライアントにとっての最良の目論見を構築できない余地が残されています。また資格や認可が必要な専門的な事業領域の協力が必要不可欠で、柔軟な対応が求められます。弊社では、クライアントが保有する資産の内で、信託財産に振り向けられる資産の種類に応じた専門家がコーディネーターとなり全体を取りまとめるのがベターであると考えています。

※一般的な注意点としては、信託契約の履行の途中に税制を含む関係法令の改正又は判例等が示されたことを原因として契約の履行や終了が不完全になったり、推定相続人等の申し立てによる裁判等については長期間を要することが予想されたり、おおむね節税にならないことなどは、不利益事項としてご理解願います。