借家と損害保険

137684借主が加入する損害(火災)保険は、”借家人賠償責任特約付き家財保険”です。この用語は、その意味を分かりやすいように明示したもので、実際の名称は各保険会社がいろいろ工夫しています。これは、家財保険(借主の動産を補償対象とした保険)に、特約として個人賠償保険を付保し、借家人が貸主に当該建物を返還する責任の賠償を目的の一つにしたものです。

一方、貸主は、火災保険に加入します。建物等を補償対象にしています。一見すると二重に加入しているようにも見えますね。日本には、「失火責任法」があります。木造住宅を中心とした都市計画の中ではぐくまれたものです。失火者に重大な過失が無い限り、不法行為を原因とする損害賠償責任を負わないというものです。従って、重過失が無い限りは借主が失火しても損害賠償を免れると解されます。

ただし、失火した本人でも延焼を受けた同じアパートの隣人でも、借主は貸主に対して契約終了明渡し時に原状回復義務があります。これを実現できないと債務不履行を原因とした損害賠償責任が発生します。大方の契約書では、建物の滅失による当然解除が明記されていますので、履行遅滞は直ちに始まるものと思われます。借家人賠償責任特約はこの部分をカバーしているのです。

それでも、貸主が加入する火災保険を利用すれば足るのではないかという声も聞こえてきそうです。現実の世界がそうなるかどうかは別にして、その貸主側の火災保険会社から見ると保険給付金を支払うと、貸主が有する借主に対する債務不履行を原因とした損害賠償権は行使されず、その分借主は利益を得るものの、保険会社は不利益を受けている。保険会社からすればそのような第三者が利得を得ていることは看過できず、損害の賠償を請求するというものです(求償権という)。つまりその保険会社は、借主に対して損害賠償請求権を行使することが可能になるのです。

この時、借主が借家人賠償責任特約付き家財保険に加入していれば、その保険会社間で話し合いが行われることになるでしょう。もともと好んで失火する人はまずいないのであって、それでも火災はなくならないことを考えれば、これらの火災、家財(借家賠特約付き)保険が必須のものであることをご理解頂けると思います。ただし、どの保険会社を選択するのかは、保険加入者の自由意思に委ねられているのであって、強制されるものではありません。強制(条件)されるのは、それなりに足りる内容のものに保険加入するという部分だけです。ただ、どれくらいが十分なのか測りきれないのが現状でしょうから、仲介業者が推薦する保険に加入しておいた方が無難であることは言うまでもありません。

最後に、連帯保証人との関係の中では、通常最も大きい保証内容はこの火災等による原状回復義務でしょう。ここを保険でカバーしていれば、借主が家賃を支払うことなく居すわらない限り、又は大変な心理的瑕疵を与えない限り、その連帯保証額が高に上ることは考えにくいものです。このような関係性を取引関係者や利害関係人が理解していれば、重大な事態には陥らないものです。専門家の話には耳を傾けても損はないものです。

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